循環器内科医を目指す医学生・研修医の皆様へ

当講座が提供するキャリアデザインについて

キャリアについて

「キャリア学」という学問があることを皆さんご存じでしょうか?キャリアという言葉は最近よく使うようになりましたが、 その性質について深く考える方はあまり多くないと思います。キャリアという言葉は、いろいろ違った使われた方をします。「キャリアをもつ」という言葉は、漠然と人が専門の職業をもつことから、その職業が着実に進歩を遂げている、という意味を含んだものまで幅広く使われています。ここでは後者のキャリアの発達という視点から、若い先生や学生さんへ向けたメッセージを書きたいと思います。

私は岩手医大への赴任が決まったころ、「若い医師のキャリア形成をどのようにサポートしていくか」を組織の最重要課題とすべきと考えました。そのため、「キャリア学」について、盛岡から東京のビジネススクールに通ったり、読書を通じて勉強して参りました。キャリアとは必ずしも外見上のもの(昇進、肩書きなど)のみならず、「内面的」なものがあります。それは、自分の仕事や生活が果たしている役割を認識し、自分の本当の価値を発見し、自身の発達を自覚し、満足することといって良いでしょう。

キャリアには不思議な特性がある、といわれています。たとえば、成功者は口を揃えて「偶然の巡り合わせで、思いもよらないことをしている」と言います。キャリアは自分であらかじめデザインしきれるものではなく、行動する中で、いいもの・いい人と偶然出会い、予期せぬ変化を遂げながら醸成されていくようです。こうした姿勢をキャリア・ドリフト、すなわちキャリアの「漂流」と呼び、実際に行動していくうちに自分の進むべき方向が作られていくのです。しかし、何の目的もなく漂流しているようでは人生のドリフターズになってしまいます。人生の節目には、能動的な選択作業(キャリアのデザイン)が必要となります。しかし、どのタイミングが節目なのか、「振り返ってみればあの時だ、、」ということも少なくなく、なかなかその時点で本人が気づかないことが多いようです。その節目を的確にアドバイスできるかが、あなたにとっての我々の存在価値なのかもしれません。一般的にキャリアを考える上で重要なのは次の要素です。

 1)根本的な仕事観を持つこと
 2)「自分」とは何かという原点に立ち返ること(キャリア・アンカー)
 3)現在の状況で何ができるかを考える(キャリア・サバイバル)

とくにキャリア・アンカーは、周囲が変化しても自己の内面で不動なもののことを言い、最後のよりどころにすべき基本です。あなたがどうしても犠牲にしたくないもの、と言っても良いでしょう。自分のアンカー(錨)を知っていないと、報酬や肩書きといったものを優先し、誤った選択をしてしまいがちです。そして、意外な出会いを楽しむ心持ちがあなたのチャンスを大きくします。私の共感するイバーラ先生のキャリアを見つけるための戦略を引用します。

新しいキャリアを探すための戦略

1

行動してから考える。行動することで新しい考え方が生まれ、変化できる。自分を見つめても新しい可能性はみつけられない。

2

本当の自分を見つけようとするのはやめる。「将来の自己像を数多く考え出し、そのなかで試して学びたいいくつかに焦点を合わせる。

3

「過渡期」を受け入れる。執着したり手放したりしたりして、一貫性がなくてもいいことにする。早まった結論を出すよりは、矛盾を残しておいたほうがいい。

4

「小さな勝利」を積み重ねる。それによって、仕事や人生の基本的な判断基準がやがて大きく変わっていく。一気にすべてが変わるような大きな決断をしたくなるが、その誘惑に耐える。曲がりくねった道を受け入れることだ。

5

まずは試してみる。新しい仕事の内容や手法について、感触をつかむ方法を見つけよう。

6

人間関係を変える。仕事以外にも目を向けたほうがいい。あんなふうになりたいと思う人や、キャリア・チェンジを手助けしてくれそうな人を見つけ出す。だが、そうした人をこれまでの人間から探そうと考えてはいけない。

7

きっかけを待ってはいけない。真実が明らかになる決定的瞬間を待ち受けてはいけない。毎日の出来事のなかに、いま経験している変化の意味を見出すようにする。人に自分の「物語」を実際に何度も話してみる。時間が建つにつれ、物語は説得力を増していく。

8

距離をおいて考える。だがその時間が長すぎてはいけない。

9

チャンスの扉をつかむ。変化は急激に始まるものだ。大きな変化を受け入れやすいときもあれば、そうでないときもあるから、好機を逃さない。

出典:H.イバーラ『ハーバード流キャリアチェンジ術』
翔泳社 2003

岩手医大循環器内科では、入局する医師のキャリアについて真剣に考えています。我々の原点はここにあります。

 

キャリア形成を重視する研修体制と組織原理

1.自由闊達な環境の提供

2.最先端医療をどこよりも早く体験できる体制

3.すべての循環器分野を隈無く研修するローテーション体制

4.臨床から生まれた疑問に基づく研究活動

5.地域出向でしか得られない臨床経験と根源的な喜び

6.地域医療に真摯に取り組む医師たちとの出会い

7.エンパワーメントを重視した日常業務から得られる経験

8.さまざまな個人ニーズを生かすためのフレキシブルなカリキュラムの提供

9.海外留学の奨励、海外の学会への積極的参加

10.国内外の医師との積極的な交流 

我々は上記の信条に基づいて、若い先生のキャリア形成を応援致します。

キャリアを維持するための医局のルール(集団サポート体制)

キャリアはたびたびピンチを迎えます。困難は誰にも訪れますが、その期間をいかに上手くやり過ごすか、そこが鍵でしょう。そんな状況を集団でサポートできれば、ピンチも最小化します。そういった場合の「保険」こそ、これからの組織が持つべき機能です。

たとえば、子育てをはじめとする家庭の事情で、9時から5時までは仕事ができてもそれ以降の時間外の仕事が困難な先生も少なくないはずです。今までは、そういった境遇の先生は、大学や忙しい病院を離れ、時間の余裕のある施設でパートタイム仕事を選択される傾向にありました。

私ども循環器内科は、そういった事情の先生を歓迎致します。検査や病棟など、手薄になりがちな仕事を日中にしていただきつつ、自分の専門分野や研究テーマも持ち、循環器内科医としてのキャリアを継続いただきたいのです。やがて、家庭の事情などが一段落つき、フルに働ける様になれば通常のコースにお戻りいただきます。環境さえ整えば、簡単にあきらめなくても、ご自身のキャリアを伸ばすことが可能なのです。

フルに働いている先生と比べ不公平になるのではないか?とご心配の先生もいらっしゃると思いますが、様々な仕事をシェアいただくことは、我々にとっても大変ありがたいことです。「家庭を心配せずにフルに働ける境遇の先生こそ、そもそも恵まれているのだから、不満を言ってはいけない」、という姿勢を新講座発足時の医局の共通ルールとしています。我々はそういった皆さんの力を必要としておりますし、フレキシブルに対応して行く所存です。どうぞ、お気軽に門をたたいてください。

多様な研修ニーズを満たす独自の選択コース(希望者のみ)

総合循環器内科診療コース

循環器内科診療は、各分野の治療内容が高度専門化し、どんどん細分化していく傾向があります。それに対し、将来、開業医やもっとジェネラルな循環器内科医を目指す先生も多くいらっしゃいます。大学病院では、こうしたニーズに対応しきれない傾向が強くなって参ります。そこで、広い範囲で循環器内科を勉強いただくための総合循環器内科のコースを創設致します。もちろん、途中で高度専門医を目指すコースに変更することも可能です。

岩手医大循環器医療センターの特徴を生かしたハートチーム・カリキュラム

循環器医療センターでは、内科、心臓血管外科、循環器小児科、放射線科、麻酔科でハートチームを形成して診療に当たっています。15年間、毎朝欠かさずカンファランスして培われた、国内皆無のハートチームであると自負しています。従って、循環器内科と外科、小児科などの複数の診療科をまたぐハイブリットな研修も可能です。複数の科を勉強し、将来自分に合った方を専門にすればよいと考えています。そういうニーズの方は応援します。遠慮なくご相談ください。

地域出向をどのように位置づけるか

我々は各人のキャリア形成と同時に、地域医療を支える社会的な責任があります。多様なキャリアの価値観を認めますが、地域医療のために一定期間の地域出向の義務を負っていただくことになります。どうせなら、地域出向の期間をポジティブなキャリア形成の期間とできないでしょうか? 地域医療には大学在職中には得られない、患者さんとのより近い距離感、診療から得られる別の満足感、より裾の広い臨床経験、など、バランスがとれ、かつスケールの大きい医師の養成には不可欠な要素があります。地域医療への出向サイクルを改善させること、大学在職時に圧倒的に最新の医療に触れられる環境を準備することが地域出向の意義を明瞭にすることでしょう。

幸いなことに昨今のIT技術の進歩により環境のボーダーレス化が進み、離れた施設でも飛躍的に情報交換ができる様になりました。地域病院に派遣されることに抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、皆さんのキャリアを守ることと地域診療体制強化は両立しうると信じています。

国内第2位の面積を有する岩手県を診療圏に、「時間」相手に闘わなければならないのが循環器内科です。テーマが大きいだけに非常にやり甲斐があります。大学病院と関連病院がネットワークでつながれ、患者情報のリアルタイムな情報シェアも可能になりました。最先端の遠隔医療体制の確立も新たなテーマとなり、今後、他県のモデルとなっていくことと思います。